第2.3 何が大事で、何が大事でないか?

3 何が大事で、何が大事でないか?

大事なモノ

まず徹底的に考えてみる (2.3.1)

 

このように「削る」「捨てる」あるいは「優先順位をつける」ということで、「敵を小さくする」ことができます。

 

ただ、その前提になるのが何が「大事」で何が「それほど大事ではない」のか、ということに対する的確な評価です。これを早い段階でする必要があります。

 

では、具体的にはどうしたらよいのでしょうか?

 

それは、一般論としては、あまり言えません。それこそ「臨機応変」つまり、その「機」に臨んでみなければ、わからないものです。

 

例えば、先に挙げた私の「択一試験必勝法」ですが、ここでのポイントは「解けそうもない問題」を15問選び出し、解かない、ことにあったわけですが、この15問を最初から決めることはできません。以前、受験生にこの作戦について話したところ、「最初から各科目の最後の5問を解かないと決めてしまってはダメなのですか?」と質問されたことがありましたが、それではダメなのです。この作戦は「60問のうち、簡単な問題ベスト45問を解くならば、合格に可能な正解数を得ることができる」という考え方に基づいています。ただ単に機械的に45問を解くというわけではないのです。機械的に45問を選ぶのならば、その中には到底解けそうもない問題も含まれてしまいます。そうなれば、結局、合格に必要な点数に足りなくなってしまう可能性があります。

 

ですから、この作戦のポイントは、いかに「解けそうもない問題」を早い段階で見切るかということにあり、それをあらかじめ決めることはできません。まさに「臨機応変」にやるしかないわけです。

 

しかし、一般論としてあらかじめ考えておくことはないか、と言えば、少しはあります。

 

第1に、捨てる段階で、徹底的に考えておくこと

 

何度考えても同じ結論になるだろうと思うくらい考えておけば、後になって「やっぱり手を出したい」という気持ちになったときにも、「いやいや、あの時に徹底的に考えて抜いて決めたことではないか」と思い返し、思いとどまることができます。そのためにも、徹底的に考えておくことです。そこで、絞る段階では、情報を集め、先生や先輩、経験者の話を聴き、よく吟味し、納得できるまで考えるべきです。だれかの言葉に流されて安易に決めたりすると、後で別の情報が入ったときに、すぐにフラフラとしてしまいます。

 

第2に、一度決めたら、迷わないこと

 

人は、いまやっていることが本当に重要なことだと確信していれば、それに全力を投入することができますが、迷いがあると、どうしても「全力」とはなりません。それは、チカラのロスを生じさせます。これが最もムダなのです。そもそも「敵を小さくする」のは、弱くて小さい自分のもっているわずかな労力と時間とを有効に使うためです。労力と時間が有り余っているわけではないので、これを最大限有効に使わなければならない。これが、この戦略の発想の原点です。そうしたときに、せっかく「敵を小さく」しても、その「敵」を倒すために全力を投入できないのであれば、無意味です。ですから「迷い」は大敵です。

 

効率性と「急がば回れ」 (2.3.2)

 

「敵を小さくする」という戦略は、クルマになぞらえると「ナビ」の機能に似ています。つまり、目的地に到着するまでの最も効率的なルートを選択するという発想です。

 

しかし「効率性」ということを言い出すと、常に生ずる勘違いは「急がば回れ」との関係です。

 

ふつうは、最短距離をとるのが、労力の面でも最も効率的だし、最も時間もかからないハズです。しかし、その一方で、そうでない場合があるからこそ「急がば回れ」という諺もあるわけです。そして、私の知っている司法試験の世界でも、この「効率性」を履き違えた結果、合格できない、という人が結構いました。

 

例えば、「効率性」を考えた結果として、「即効性」のあるものに手を出す人がいます。しかし、「即効性」と「効率性」は異なります。例えば、模範答案を暗記してしまえば効率的だと考え、そういう勉強をしていた人が、旧司法試験の末期ころには、結構いました。それを効率的な方法と考えていたのでしょう。

 

しかし、これは限界のある方法です。出題される問題があらかじめ決まっていて、いくつかの答案を暗記して吐き出しさえすれば満点が取れる、というような場合でない限り、使えないものです。確かに、いくつかの答案を暗記することは、がんばればできるかもしれません。しかし、その数が、数十、数百となると、到底無理です。ですから、この方法には、そもそも先がないのです。しかし、そんな方法で受験することを指導していた司法試験予備校があったわけですから、当時、司法試験予備校が批判されたのにも理由がなかったわけではありません。

 

それから、こんな話も聞いたことがあります。ある受講生が、司法試験予備校の授業で内容に分からないことがあったので、授業終了後に講師に質問に行ったところ、講師は、その内容に答えるのではなく、「そんなことは暗記してしまいなさい。みんなそうしているし、そんなことを気にしてたら時間がかかるよ。あなたくらい優秀な人なら、こんなの暗記してしまうことくらいわけないでしょう?」と答えたというのです。

 

この講師の対応をどう思いますか?

 

憶えちゃいなよと言う予備校講師

 

この講師の言うように「疑問点を解消して本当に理解しよう」ということをしていたら、合格までに「時間がかかる」のでしょうか? 確かに、明日の試験のために、とにかく頭に入れなければならない、という短期的な場面であれば、「暗記してしまう」というのも有効な方法かもしれません。とにかく明日一日を乗り切ればよいし、明日までに十分に理解を深めている時間もない、という場合です。しかしこれもまた限定的なものです。ふつうは、こんなやり方で、数多くの論点のすべてに対応することなどできません。ですから、答案を暗記することも、論点を暗記することも、「効率的な方法」であるとは到底思えません。右の講師の対応は、面倒くさい受講生の質問を単にかわしているにすぎないように、私には思えます。誠実な回答ではないでしょう。

 

 

 

扇子を想像してみてください。先の方は広がり、元の方はすぼんでいます。勉強で言えば、具体性の高い知識が「先」で、抽象度の高い知識が「元」です。具体性の高い知識――その典型が「答案」です――を押さえようとすると、数が増えてしまいます。これに対して、抽象度の高い知識――いわゆる基礎とか基本と呼ばれるものです――は、一般に数が少なく量も限られています。ただ、難点は、抽象度が高い分、理解しずらいということです。しかし、抽象度が高いということは、応用範囲が広いということであり、そこから推論することで、多くの具体的な事象に対応できるということです。つまり、基礎や基本は「マスターするのには努力を要するが、マスターしてしまえば応用範囲が広く役に立つ」ということです。

 

扇子の図

 

ですから、多少の労力と時間をかけてでも、基礎・基本をマスターし、その応用の仕方を学んだ方が、答案を丸暗記するよりも、結果的には早道になります。これが「急がば回れ」ということです。

 

ナビによるルートの選択を考えてみてください。最短距離だからといって、一般道を走るルートが最も早道かというと、そうでもありません。多少距離が遠くなったり、最初にちょっと渋滞に巻き込まれたりしても、高速道路に乗ってしまった方が、結果的には早く着くというのと同じです。

 

急いでいるからといって、裸足で走り出すのは利口なやり方ではありません。短い距離ならいいでしょうが、距離が長くなれば、足の裏が擦り切れてしまいます。急いでいるからこそ、ちゃんと靴を履き、靴紐を結んでから、おもむろに走り出すべきなのです。 「答案を丸暗記する」「論点を丸暗記する」などというやり方をとる人は、裸足で走り出すのと同じくらい愚かな過ちをおかしているのです。


エレキギターが欲しくなった方へ……

 

扇子が欲しくなった方へ……

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はじめに 目 次 第1章 第2章 第3章 第4章 第5章