第4.1 秘密兵器と必殺技

1 秘密兵器と必殺技

秘密兵器と必殺技

ヒーローには必殺技が必要だ (4.1.1)

 

今も昔も、男の子たちはヒーローモノが大好きですね。そして、ヒーローモノには、敵を倒すための「必殺技」や「秘密兵器」がつきものです。

 

スーパーマンは、あまりにも強すぎて必殺技もクソもありませんが、ウルトラマンにしても、仮面ライダーにしても、あるいは戦隊モノにしても、何らかの「必殺技」があるものです。また、バッドマンは「秘密兵器」というのとはちょっと違うかもしれませんが、いろいろな小道具をもっていますよね。

 

このような「必殺技」や「秘密兵器」の使用は、敵と自分のチカラの差を補って敵に勝つための戦略といえます。

 

第2章と第3章では「敵を小さくする」戦略と「自分を大きくする」戦略を見ました。こうしてチカラの差を埋めて、自分の方が大きくなれば、おのずと勝利を手にすることができる。これは、極めて当たり前の戦略であり、正攻法です。

 

では、こうしてチカラの差を埋めても埋めても、結局、自分の方が大きくならなければ、やはりこちらに勝ち目はないものなのでしょうか。

 

そうではありません。

 

チカラの差を「なくす」ことはできなくても、自分のチカラの不足を「補う」ことはできるからです。いや。正確に言えば、できる余地がある、からです。

 

例を挙げましょう。2008年に、レーザーレーサーという名前の競泳用の水着が話題になったことがありました。その水着は、水泳中の水の抵抗を抑え、その水着を着て臨めば他の選手よりも断然有利であるということで、実際にも、それを証明するかのような結果が続出したために、一躍脚光を浴びたのでした。これが良い例です。つまり、水泳の実力はライバル選手に及ばなくても、この水着を着ることでその差を補い、勝つことができるということだからです。もっとも、この水着は、あまりの威力に、2010年になって禁止されてしまいましたが。

 

時代はさらに遡りますが、背泳の鈴木大地選手のバサロスタートも同じような例と言えます。バサロは、背泳ぎの泳法の一つで、スタートやターンの直後に潜ったままドルフィンキックで進む泳法ですが、1988年のソウルオリンピックで、これを得意とする鈴木大地選手は、30メートルのバサロ泳法で金メダルを獲得しました。これも同様の例と言えるでしょう。もっとも、この場合もその後ルール改正により、潜水距離は10メートルに制限されてしまいました。その後15メートルまでに緩和されて、現在に至っているようです。

 

たまたま水泳の例から2つを引きましたが、前者は「秘密兵器」の例、後者は「必殺技」の例と言えます。いずれも「道具」や「技」を開発することで、チカラの差を補って勝つという戦略です。

 

クルマにたとえるならば、「敵を小さくする」というのは、カーナビを用いて最適なルートを選択するという戦略、「自分を大きくする」というのは、エンジンを強化するという戦略ですが、この章で見る「状況に応じた闘い方の開発」は、その他の部分、例えば、ギアやタイヤを改良することでエンジンの非力や燃費の悪さを補ったりする、ということにあたるといえるでしょう。

 

弱点を補う工夫は無限 (4.1.2)

 

人間は、その生命の価値を除いては、そもそも生まれつき不平等な存在です。生まれつき優れた身体能力をもつ者はスポーツに有利ですし、生まれつきカッコよく生まれた男子は小さいころから女の子にモテモテです。また、生まれつき頭の回転が速かったり、記憶力がよいという人もいるものです。こういうことは、考え始めたらきりがなく、溜息も出てくるし、だんだん気持ちが滅入ってきます。

 

人間に与えられた時間は、1日24時間、1年365日と、だれにとっても平等です。しかし、頭の回転の速い人は、同じだけの時間により多くのことを考えることができるのかもしれません。つまり、頭の回転の遅い人とは時間感覚が違うのかもしれません。また、記憶力のよい人は、一度憶えたことを忘れないので、何度も憶え直すというムダなことをしなくて済むでしょう。こういう人たちが、各種の試験などにおいて、そもそも有利な地位にあることは、疑いありません。

 

それに引き換え、頭の回転もそこそこ、記憶力もそこそこ、という人は、こういう人たちに比べて、明らかに不利な地位に立たされています。

 

しかし、だからこそ「闘い方」を考える必要があるのです。もちろん、頭の回転を速くしようという努力、記憶力を向上させようという努力――私自身、これをどうやったらいいのかよく解りませんが――も必要かもしれません。しかし、それと同時に、それを補う工夫が必要となります。

 

例えば、いかに頭の回転が速くても、思考が同じところをグルグルと回ってしまうのでは、競技場のトラックを走っているようなもので、ぜんぜん先には進みません。これに対して、たとえゆっくりであっても、正しく考え、一段一段成果を積み重ねていく思考を身に付け、これを実践してゆくならば、思考は確実に前進していきます。そして、こうして得られた結果は、「正しい方法を知らない頭の回転の速い人」よりも、ずっとよいものであると考えられます。

 

つまり「正しい方法を知っている頭の回転の遅い人」と「正しい方法を知らない頭の回転の速い人」とでは、結果において前者の方が後者に勝るということです。

 

また、記憶力についても同じことが言え、いろいろな工夫によって補う余地があります。例えば「たくさん憶えられない」のであれば「記憶する対象を絞る」――これ自体、敵を小さくすることでもありますが――という方法もありますし、「すぐに忘れてしまう」というのが弱点であるならば、「すぐに思い出すための道具を使う」という方法も考えられます。

 

「顔がよくない」のであれば「楽しい話術」でこれを補うというのもモテるための方策でしょうし、「体力で相手選手に及ばない」のであれば「技を磨く」ことによってこれを補うということもスポーツ選手の一つのあり方でしょう。

 

いずれにしても、弱点を「なくす」ことには限界があっても、弱点を「補う」工夫は、無限に考える余地があるのです。


本当の必殺技が気になる方へ……

 (これ、いい本です。面白い)

 

 

本当の三所責めが気になる方へ……

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