第3.5 指揮官のように考える

5 指揮官のように考える

指揮官のように考える

親が教えると上手くいかないワケ (3.5.1)

 

これは、常にあてはまるというものではありませんが、他人の子に教える場合には上手くいくのに、自分の子に教えると上手くいかない、という場合があります。それは、他人の子だと、上手くできなくても、適当に褒めながら、その子が伸びてくるのを待つことができるのに、自分の子だと、気持ちが入りすぎてしまい、出来ないと教える方が焦れてしまう、というのが原因です。そのことで、結局、子どもをダメにしてしまう――。

 

本来であれば、上手くできない子どもの方こそが精神的に不安になるのですから、教える方がそのあたりをよく理解して、やる気を失わないように褒めながら伸ばしていくことが必要なのに、教える方に余裕がなくなってしまい、子どもの感情にまで配慮できなくなってしまうわけです。

 

これは、自分の子どもではなく、自分自身に対してもあてはまる部分があります。自分自身が思うように出来ないと「オレってダメだ」と落ち込んでしまいがちです。そして、だんだんと「やる気」が殺がれていくのです。

 

もし、自分が他人を指導している立場だったら、たとえ教えている相手が上手くできなくても、いわば「他人事」ですから、気軽に「ドンマイ、ドンマイ」「焦らなくても、そのうち出来るようになるから気にするな」などと声を掛けることができるのに、自分のことだと焦ってしまうのです。

 

長期戦に臨む場合、その期間中いかにして「やる気」を維持していくか、ということがとても重要です。長期戦になるということは、つまりは、勝つために必要なチカラを蓄えるために時間がかかる、ということを意味しています。

 

 

しかも、このような長期間の準備が必要な場合の実力の伸びというのは、必ずしも一次関数的に徐々に伸びていくわけではなく、伸び悩む時期が長くあり、それが、ある時点でフッと浮上するような感じで実力が伸びる、ということが往々にしてあります。このことが分からないと、伸び悩む時期は相当に精神的にツラいものがありますし、このことが分かっていても、伸び悩む時期には、どうしても焦ってしまうものです。だからこそ、精神的な管理がとても重要になります。

 

指揮官としての自分、兵士としての自分 (3.5.2)

 

そこで、自分自身が試験を受けるなど、自分自身で闘う場合には、意識的に、自分の中を「指揮官」と「兵士」、つまり、「管理する側」と「管理される側」の2つに分離するようにします。つまり「指揮官」としての冷静な目で、「兵士」としての自分自身を客観的に観察し、どのように育てていくのがよいのか、を考えるようにするのです。

 

こうしてみれば、「お前は、どうしてそうダメなんだ」と感情的にしかりつけても、「気合いだ!」と精神論を説いてみても、「兵士」が着いてこないことは明らかです。自分自身を他人のように見れば、「指揮官」としては「兵士」の伸び悩みに不満であっても、そのような「そこそこの兵士」をどのようにしたら最も効果的に成長させることができるかを冷静に考えるヒントが与えられます。

 

多くの場合は、「兵士」の立場としては「ドンマイ、ドンマイ」「焦らなくてもそのうち出来るようになる」と気楽に構えることとが大切です。しかし、同時に、「指揮官」の視点からは、本当に伸びていないのか、伸びてはいるけれども実を結んでいないだけなのか、努力の方向が間違っているのかそうでないのか、このまま前進しつづける方がいいのか別のルートに変更すべきか、などについて、冷静に検討し判断することが、よい効果をもたらすはずです。

 

喜怒哀楽を管理する (3.5.3)

 

「指揮官」の視点から「兵士」のやる気の管理を考えるとき、次の4つの点を考えることができるでしょう。

 

第1は、すでに触れたことですが、

 

長期戦になる場合、適度に休息や余暇を配置することで、
兵士が腐らないようにすること

 

です。
例えば、試験勉強の場合、欲望を我慢しながら勉強に打ち込まなければならないとすれば、自分自身を「哀しい」気持ちにさせますし、効率も低下させます。ですから、勉強の邪魔にならないように、出来るだけ短時間でリフレッシュする工夫をし、欲望は直ちに解消する方が、我慢して続けるよりも、はるかに効率的です。

 

私自身は、大学在学中は毎年のように合コンを続けていましたし、時々はデートもし欲求も然るべく解消していました。そして、人間は、不思議なことに1つの欲望が満足しないうちはそのことばかり考えてしまうのに、それが満足すると、次のことを考え出すようです。デートで一応の満足をすると、相手には大変失礼な話ですが、すぐにでも帰って勉強をしたくなるのですから、自分自身の感情の動きというものがいかに単純な法則に従って動いているかをよく感じたものでした。

 

第2は、

 

目的達成のための過程、つまり、自分を大きくするための努力自体の中に、楽しみの要素を意識的に取り入れ、その努力の中に楽しみを見いだせるようにすること

 

です。
例えば、試験勉強の中にゲームの要素を取り入れるなどです。

 

どんな試験の勉強でも、何かを憶えたり、暗記したりすることは、必要です。司法試験は、その要素の比重が比較的少ない方だとは思いますが、それでも法律用語の定義など、暗記すべきことはたくさんありました。しかも、悪いことに、私自身、暗記は不得意であり、また、大嫌いでした。それでも試験に受かりたかったら暗記をしないわけにはいきません。そこで、友人と2人でゲームのようなことをしながら暗記をするようにしていました。一方が法律用語を言い、相手がその定義を答える。これを繰り返し、答えられなかったらペナルティとして50円を出すというものです。そして、そのペナルティは貯めておいて、その後、一緒にビールを飲むときの足しにしていたと記憶しています。当時、司法試験受験生の間では、多かれ少なかれこのようなことをしていた人がいました。このような楽しみの要素を取り入れることによって、無味乾燥な試験勉強を少しでも楽しくする工夫は結構有効です。

 

第3は、

 

常に自分自身に実力の伸びを意識させること

 

です。
第2で述べた「楽しみ」の要素を試験勉強に取り入れることは、勉強を楽しくする一つの工夫ですが、勉強を何よりも「やる気」にさせるのは、その勉強の効果が上がっていて、自分の実力が伸びているという実感です。これは、大きな「喜び」であり、勉強を続けるうえでの大きな推進力になります。

 

これは、例えば、ウエイトトレーニングで身体を鍛えている時に、日に日に筋肉が盛り上がってきた身体を鏡に映して確認するのと同じです。「おお、付いてきた付いてきた」という実感が、何よりもトレーニングの励みになることは、明らかです。ですから、試験勉強などでも、できるだけそういう実感が感じられるようにすることです。

 

私は、司法試験の受験勉強の時は、教科書を読み、その内容を整理してノートを作る、という作業を地道に続けていたのですが、この場合、知識が少しずつ理解され、ノートが増えていくという実感が日々の喜びであったことは間違いありません。たとえ模擬試験での成績をすぐに引き上げるような即効性はなくとも、このようなノートが徐々に増え、すべての重要な論点を網羅できれば確実に合格することができる、という実感こそが、大きな推進力でした。

 

第4は、第3の裏側にある問題ですが、

 

徹底的にムダなことを排除し、意味のない苦労をさせないこと

 

です。
すでに見た「敵を小さくする」という戦略も、やらなくてよいことをできるだけやらないで済ませるという工夫ですが、実際の努力の仕方についてもできるだけムダを排除するという発想は、必要です。人は、ムダなことをしてしまったと感じた時、どうしようもない「徒労感」と「怒り」を覚えます。ですから、このようなことにならないように、常に、現在自分のしている勉強が効果を伴っているかどうかのチェックをし、効果が上がっていないようならば、やり方を改善します。

 

例えば、1時間教科書を読んでみても、その内容がまったく頭に残っていないようであれば、その1時間はムダだということになります。そのような状態が起こるのは、読むのがイヤで字を目で追っているだけになってしまっているのかもしれません。それは、疲れていることが原因かもしれませんし、内容が理解できないことが原因かもしれません。いずれにしても、そんな状態で何時間、何十時間を費やしていても時間のムダでしかありません。そこで、このような場合は、立ち止まってその原因を考え、その原因を解消するようにします。そして、常に効果が上がるようにチェックすることです。

 

古くから感情は「喜怒哀楽」の四つに分類されますが、第1から第3までの4つの点も、ややこじつけ的ですが、これと関連させて理解することが可能です。

 

第1は、努力の中から「哀」を減らすこと
第2は、努力の中に「楽」の要素を加えること
第3は、努力に「喜」を感じられるようにすること
第4は、努力に「怒」を感じないようにすること

 

と理解することができます。


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