第3.3 自分を甘やかす

3 自分を甘やかす

欲望を牽引力にする!

ストイックの罠 (3.3.1)

 

私は、幸いにもそういうタイプではありませんでしたが、受験生の中には「ストイックの罠」にハマってしまう人がまま見られます。

 

「ストイックの罠」は、遊びや彼女などは受験勉強の妨げになるという考えの下に、遊びを禁じ、彼女を禁じ、とにかく、自分の欲望という欲望を断ち切って受験勉強に専念しようとする人に、しばしば起こります。簡単に言えば

 

「禁欲的」に生活していること、つまり「遊んでいない」ことを
「勉強している」と勘違いしてしまうこと

 

です。
しかし「遊んでいない」ことと「勉強している」ことは違います。「苦労」していることと「努力」していることもイコールではありません。

 

人は、苦しいと、何かそれに応じて効果が上がっている(=利益がある)ように錯覚します。それは「何の効果もないのに、苦しい」のは不合理だと思えるからです。これは「苦いクスリは効いているような気がする」のと同じです。人は、苦しかったり、痛かったり、ツラかったりしたら、相応の効果がなくてはならない、あるはずだ、と、どういうわけか考えてしまうのです(※心理学では、これを「認知的不協和の理論」というそうです)。

 

しかし、現実には「苦いクスリ」が「効く」とは限らないし、「ツライ」からと言って「効果が上がっている」とは限らないのです。

 

ところが、ストイックな受験生活を送っていると、いつしか、その遊んでいないツラさを、勉強している、効果が上がっている、と勘違いしてしまいます。

 

しかし、断言しますが、苦しいかどうかと効果があがっているかどうかとは別問題であり、関係がありません。努力は、効果の上がるように努力しなければ、どんなに苦しくても、効果はあがりません。

 

この「ストイックの罠」は、ある種の錯覚であり、自己満足なのですが、虚栄心や見栄とも関係があります。受験生は遊んでいると周囲から「受験生のクセに」と陰口をたたかれ、逆に、禁欲的な生活を送っていると周囲から感心されたり心配されたりするからです。しかし、周囲から心配されたり感心されたりしても、そんなものには、何の価値もありません。その場だけは、少しは居心地がよいかもしれませんが、そのうち忘れ去られる運命なのです。世間は、結果を出さない者に対して、極めてシビアで冷たいものです。

 

ですから、ストイックな自分に酔ってないで、目を覚まさなければいけません。むしろ、周囲によくわかるように、よく遊び、周囲から「受験生のクセに」と陰口をたたかれるようにし、それバネにして、「結果を出すことで見返してやるのだ」という意気込みをもつことこそが大切だと思います。

 

どうやって「やる気」を維持するか (3.3.2)

 

私の経験した司法試験との闘いは、長期戦でした。1年間では、到底打ち破ることはできず、実際、私は、大学3年生の時から受け始めて、合計7回の受験を経験しました。勉強を始めた大学1年生の時から数えれば9年間かかったことになります。もっとも、最初の1年は、自分がマジで合格できるとは思っていなかったので、それほどの真剣味はありませんでしたが……。

 

このような長期戦の場合、短期決戦とは違った工夫が必要となります。すでに述べたように、短期決戦ならば、「息を止めて泳ぎ切る」というのと同じように、いわば「チカラわざ」で乗り切ってしまうという方法もあるでしょう。しかし、長期戦なれば、そんなワケにもいきません。そんなことをしたら、死んでしまいます。毎日少しずつ体力トレーニングをして、少しずつ体力を付けていくように、日常の生活の中に「勉強」というものを組み込み、馴染ませ、定着させて、生活のスタイル自体を「合格に向けての準備」に振り向けていくことが必要です。全力で走ったりしません。毎日少しずつでもその方向に向けて歩き続けるようにすることです。

 

そしてその場合に重要なことは、

 

その「合格に向けての準備」の生活それ自体がイヤにならないように、
その生活の中に適度な「休息」や「楽しみ」なども組み込んでおくこと

 

です。
長期戦になった場合の最大の敵は、自分の「やる気」が下がってしまうこと、つまり、受験生活自体がイヤになって「こんなに苦労するなら、もういいや」と諦めてしまうことです。そこで、そういう気持ちにならないようにすることが、長期戦では一番重要です。

 

自分を甘やかす (3.3.3)

 

自分がやる気を失わないようにする。

 

これは、つまり、自分自身を管理するということです。自分は、あくまで自分なのですが、自分の心の奥底から湧き上がってくる感情は、自分自身の思い通りになるものではありません。

 

私たちは、自分自身がどういう時に、どういう気持ち(感情)になるか、ということは知っていますが、その感情自体を直接コントロールすることはできません。私たちにできることは、その感情が生まれる環境を作り出すことです。これは、例えば、こういうことです。

 

私たちは、「楽しくなろう」と決意することで「楽しくなる」ことは、できません。そこで、私たちは「楽しくなる」ために、自分が楽しいと感じる環境に、自分の身を置くことにしています。例えば、映画を見たり、小説を読んだり、パチンコに行ったり、酒を飲んだり、好きな女の子とデーとしたり、などです。つまり、私たちは、どういうときに自分が楽しい気持ちになるか、ということを経験的に知っていて、その知識を活用して、そういう楽しくなる環境に自分を置くようにすることで、自分が楽しい気持ちになるように間接的にコントロールします。そして、どうしても現実のそういう環境に身を置くことができないときは、最後の手段として、自分を騙すために、想像します。妄想すると言ってもよいかもしれません。現実には存在しない環境がいま現在存在するかのように想像することによって、自分の気持ちをコントロールするわけです。

 

そういう意味で、人は、自己の意思によって自由に考え、自由に行動することはできますが、直接感情をコントロールすることはできず、そのため、自分の環境をコントロールすることで、感情をコントロールしているのです。

 

そう考えると、感情をコントロールしようとする場合、そのやり方は、自分の感情をコントロールすることも、他人の感情をコントロールすることも、基本的には同じということです。

 

そこで、長期戦の中にあって自分の「やる気」を維持し、イヤにならないようにするには、自分自身のことを突き放し、他人と同じように見て、適度に「甘やかす」という態度が重要になります。

 

これが受験時代の私の、自分自身を管理するうえでの戦略でした。

 


「ところで、あの罠って、いくらぐらいするなんだろう?」って思った方へ……

 

動物罠 トラップ0号

 

認知的不協和の理論に興味が湧いた方へ……

 

 

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